11月25日 剣山登山
皆様、ご無沙汰しております。前部長の小味でございます。
4年前に上杉前々部長が企画し、悪天候のため中止になって以来、現6年原田とは、毎年のように企画しようと言ってはなんやかんやで流れてしまっていた、11月末の徳島県剣山登山がようやく実現し、登ってまいりましたのでご報告であります。この登山の最たる目的は、この季節から見られる「樹氷」という現象を観察することでした。積雪のために登山という行為そのものが極めて大きな危険を伴うものとなる前、ぎりぎりのタイミングで企画出来る時期はこの11月に限られると考えておりました。
日取りは11月25日の日曜日、OB会の翌日。メンバーは6年堀井、原田、4年小澤、長江と私でしたが、長江は流行り風邪にかかるタイミングが当日に重なり、残念ながら欠席。ODSCの登山はまずメンバーと日時を決めたら、計画書を作成しながらその詳細を煮詰めていきます。
今回は見ノ越登山口からロープウェイを使わずに剣山山頂までの往復という、新歓の定番イベントで私も何度も登り慣れ親しんだルートを選択することにします。しかしその4,5月の登山と決定的に違うのは、気温の低さと、山が冬景色になるかならないか、ぎりぎりの時期に差し掛かっているということと想定できます。そのため、剣山頂上ヒュッテに電話して山の状況を確認しようとすると、親切にもいろいろとお話しいただき、大変重要な情報を得ることができました。
まずヒュッテの今年の営業は11月24日までのため(笑)、25日当日は宿の方々の下山に間に合わねば中に入れないということ。ですが、もし間に合えば温かい中で休憩させていただけるという親切なご了解をいただきました。次に、電話口のご主人の目の前では当に雪が振り始めており、積もれば少し雪がある可能性を考えねばならないこと。しかし登山口までの車道が凍結しているか否かは長らく山頂にいらっしゃるためご存知ではないとのことでした。このことを受けて、やはり装備品は用心深く、漏れなく準備すべきと判断しました。
装備表のテンプレートはデータ化され、部員誰もが利用できるように作られたExcelファイルがあり、それは夏の登山を前提とし、漏れの無いように隅々までリストアップされているので、私にとっては完全版であり、GPSやその他の通信機器等、今ひとつ活かしどころのわからないものを普段は消去し、大げさに言えば学習素材として使用しているようなものです。
今回はここに防寒を徹底した服装(耳、首、手首、足首を断熱すれば、よほどでない限り、寒く無い!)、6本爪軽アイゼン、車にチェーンを装着する用意等を盛り込みました。
さて、2、3日の寒波で心配された当日の天候は晴れて風もなく、気温も程よい涼しさで、上着、あるいはインナーを着脱しないと汗をかくほどの陽射しがありました。ただ結果的には安全だった車道の路面ですが、標高のある山道に入ってから一箇所だけ氷が張っているのが見え、もし雨の後なら所々でスリップの危険性は十分にあったと思うので、やはりタイヤに気をつけておいたのは正解だったと思われます。
登山口には登山客の車がかなり停まっていてオンシーズンさながらの賑わいだったのが意外で、ヒュッテの営業終了が昨日だったこともあり、今一状況が飲み込めないまま登り始めます。ヒュッテのご主人の言う通り、登山道に入るとのっけから雪が薄く積もっていて、早々と軽アイゼンをセットすることに。朝10時頃の周りの登山者は、上る人はだいたいが我々よりも軽装備、下る人は山中泊からの帰りなのでしょう、12本爪アイゼンを装着している人ばかりでした。登山道中、我々が軽アイゼンを登山靴に付けたり外したりするために何度も立ち止まったのですが、軽アイゼンを持ってきていなかった中年のご夫婦と何度もすれ違い、言葉を交わしたのですが、奥様は滑りやすい斜面を横向きに上りながら、こちらの装備を羨んでおられるようでした。
軽アイゼンの効果はいかほどかと申し上げると、積雪は薄くとも、踏み固められた雪の上を歩くのはとても滑りやすく、やはり装着すべきと判断しましたが、足底の真ん中だけ高くなるために、雪のない地面の上は非常に歩きづらく、何度も着脱する必要がありました。このためロープウェイの上り終点の西島駅から頂上までは、比較的深く積雪がありそうな大剣神社を通るルートに変更し、下山も同じルートを選びました。
素晴らしい初冬の景色に胸踊らせつつ、あっという間に剣山山頂ヒュッテに到着してしまいました。残念なことに、一度も樹氷らしきものを目にすることはありませんでした。幸運にも、ヒュッテはこの日も営業されていました。食堂で味噌汁を注文しつつカウンターのお姉さまに尋ねると、前日からの宿泊客あったため営業を延長されたとのことで、幸運とヒュッテの機転に感謝しつつ、その300円の美味すぎる味噌汁をすすりつつ、持ってきた昼食を取ります。30分ほどの休憩の後、食堂のお姉さんに「樹氷」に関して質問すると、剣山のことを全て知っていそうな、おそらくは電話口のご主人らしき人物が奥から現れ、色々とその成り立ちについて教えてくださりました。ここでお聞きした話はまた最後にしましょう。
ここから上るとすぐの剣山山頂は、空が澄み渡り素晴らしい景色が全方角に見渡せた絶好の日で、皆で満喫します。ここは雲の中に入りやすく(ガスというようです)、ここまで良い景色をゆっくりと眺められる機会は初めてでした。驚くほど軽装の、アジア系外国人のお姉様方2人組(良い子も悪い子も真似しようがない、ぷりぷりスパッツにランニングシューズという、季節感さえ何処吹く風の城下町公園お散歩スタイル)と何度かカメラを持ち合い写真撮影を繰り返したのち、下り始めます。
およそ1時間ほど山頂近辺で留まった我々でしたが、上りで出会った先程のご夫婦を途中で追い越します。上りを我々が予定していた刀掛ノ松ルートで登られたようで、頂上で再会した時に大剣神社ルートの方が歩きやすかったことを伝えると、下りはそれを選ばれ、やはり歩きやすかったとのこと。 高低差のある二点を結ぶ曲線が複数あり、どれも高さ方向に極値を持たない微分可能な曲線とすれば、距離が伸びると傾斜平均は緩やかになるので、滑りやすい斜面では当然、遠回りするほうが歩きやすい、と一般化して差し支えないんじゃないか、などと考えながら下っていると、スリップして右手に小さな擦り傷を作りました。軽アイゼンが疲れるのと、着脱の面倒さで少し滑りそうな斜面を着けずに歩いており、さらにその時は暑さから手袋も脱いでいた状況が重なったタイミングでした。擦り傷で済めば良いものの、本当に危険な場所で横着は禁忌であります。
帰りは道の駅しおのえに寄り道します。長らくの改装工事が最近ようやく終わり、営業再開したばかりの温泉、行基の湯に浸かります。再開したばかりの人気からでしょうか、見たことのない混み合い方をしていました。その後は高松市三谷町の「ひさし」でとんかつを食べて車椅子のご主人に挨拶をしてから医大解散したのは20時頃。朝の集合を私が15分遅刻してから、その後すべてのチェックポイントでずっと15分押しという、振り返ってみれば恐ろしいほどに日程表通りの、日頃から協調的な我々の行進力が殊更に発揮された山行となり、企画者としては大満足の剣山登山でございました。
最後に「樹氷」というものに関してです。これはブリタニカ国際大百科事典 によると、「おもに過冷却した霧粒または雲粒が樹木に吹きつけられて凍ったもの。霧氷の一種。羽毛状の白い氷で繊維状の構造をもっている。-5℃以下の気温のとき風のあたるほうに大きく成長する」ということです。ヒュッテのご主人によれば、剣山では、10月から11月にかけてガスの発生した日に風が吹いていると、樹木の枝葉にあたる部分から風上の方向に「霧氷」を形成し、その後カラっと晴れた日には一面の輝きを見ることができるそうです。そして溶けたり昇華したりで消えていくとのこと。風は峰の北側の斜面に吹き付けることが多いので、霧氷も北側の斜面に生えた樹木に育つそうです。ただこれはそもそも不安定な山の水蒸気に左右される現象なので、見られる日を予想しづらいそうです。今年も10月から霧氷が観察できる日があった、とのことでした。そして「樹氷」はご主人の言葉では、主には雪が降り始めてから、積雪と共に見られる樹木の雪化粧のことと仰り、これを貴重な現象と捉えられているようではありませんでしたし、これは真冬の登山を決行して初めて見られるものだと理解しました。よって、私共がお目にかかりたいと欲した現象は、剣山においては「霧氷」だった、ということになるのでしょう。ヒュッテの黒板に「10月31日初霧氷」という驚きの青文字を発見し、勝手に撮らせていただきました。なるほど、11月一杯は可能性があるということです。「霧氷」また挑戦したいと思います。
それではごきげんよう。